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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(行ツ)34号 判決

岐阜県各務原鵜沼南町七丁目二二一番地

上告人

中尾初二

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

岐阜市加納清水町四の二二

被上告人

岐阜南税務署長 磯野正巳

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五三年(行コ)第三二号所得税決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五四年一一月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹽野宣慶 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 宮崎梧一)

(昭和五五年(行ツ)第三四号、上告人中尾初二)

上告人の上告理由

第一 重大な経験法則・論理法則違背

一 原判決の事実認定には重大なる経験法則・論理法則違背が存し、常識に反し、論理つじつまの合わない事実認定が為されている違法があるので、破棄を免かれないものと思料する。

二 原判決及び原判決が引用している第一審判決の理由のうち、上告人が昭和五一年一〇月二六日午後〇時五五分頃、岐阜地方裁判所三階の民事部書記官室内に立ち寄り、午後一時一〇分頃に上告人を被告人とする所得税法違反被告事件を審理する刑事部法廷へと向う迄の事実の経過を事実認定した部分は前項の意味における違法が存する。

三 第一に、原判決の引用する第一審判決の理由第六文は、担当裁判官が次回期日昭和五一年一一月二四日午後一時三〇分を指定した旨事実認定している。又担当裁判官が書記官早野五善に数期日を指示していた旨事実認定している。かかる事実認定は明白に経験法則・論理法則に違背している。けだし、担当裁判官は本件事件が休止になったと認識していたのである。「休止」の有する意味から論理的に考え、又裁判実務の経験則から云って、事件を休止にした担当裁判官には、次回期日を、新期日指定の申立以前に書記官に指示しておく意思はない。新期日を指定する意思があるのであれば、担当裁判官は事件を休止にせず、準備期日に次回期日を決定しておくものである。更に午後〇時五五分から一時一〇分頃までの間に、担当裁判官が書記官に対して次回期日を具体的にいつとするのかを指示する時間もなかった。従って担当裁判官がいつ次回期日の指定をしたかが第一審、原審を通じて認定されていない。従って本書面第一の三、第一文及び第二文の「事実認定」は第一の一の意味において明白に違法であり適法な上告理由を構成すると思料する。

四 第二に、原判決の引用する第一審判決の理由第六文は、書記官早野五善が上告人に対し、次回期日の請書作成を求めて、裁判所所定の請書の用紙を渡そうとしたが、上告人が要らないと答え、上告人が別に請書を作成した事実を認定している。この事実認定も明白に経験法則論理法則に違背している。経験法則、論理法則によれば、訴訟当事者や代理人は、特段の合理的理由がない限り、請書作成等の事務処理については、書記官の指示あればこれに従うものである。更に裁判所所定用紙を用いて請書を作成した方が時間的にも速いし、労力的にも簡単である。又真に次回期日が決定されているとすれば、請書作成はいわば機械的な単純労務にすぎず、上告人が書記官早野五善の用紙交付を拒否する何らの実益もない。従って右事実認定も第一の一の意味において明白に違法であり、適法な上告理由を構成すると思料する。

五 第三に、上告人が「請書」と題し、具体的日付及び押印なき書面を作成し、書記官早野五善に交付し、同人からこれでは期日請書にならない旨注意されたが、二、三日後に印鑑を持参するからと云って上告人が書記官室を去った旨事実認定が為されているが、この事実認定も明白に経験法則、論理法則に違背している。書記官早野五善は、期日指定申立書は、拇印で充分と考えてこれを受理しているのだから、「請書」でも拇印を押すことを指示するが当然である。又、これでは期日請書にならないとすれば、書記官とすれば、右書面受取を拒否するのが当然である。又日付記載が白地であれば、その場で上告人にこれを補充させるが当然である。上告人としても、真に次回期日が決定されているとすれば、わざわざ二、三日後に印鑑を持参するよりも、簡便である。右事実認定は、書記官早野五善の非常識及び上告人の非常識の競合というあり得ざる事態を前提としなければあり得ざる事実認定と云うべきである。従って右事実認定も、第一の一の意味において明白に違法であり適法な上告理由を構成すると思料する。

六 第四に書記官早野五善が、期日指定の申立書を受理してから、被上告人方へ具体的な次回期日の問い合せをして、双方の都合で次回期日が決ったので、上告人が請書を、不完全なものではあるが期日指定申立書の裏面に作成してこれを書記官早野五善に交付したと云う事実認定が為されているが、若しこれが真実なりとすれば、書記官早野五善が現に所持・占有している「期日指定の申立書」の裏面に上告人が請書を作成する為めには、一度該書面を書記官早野五善は上告人に返戻しなければならない道理である。書記官早野五善は、裁判所用の請書の用紙がいくらでもあるのだから、そして現にかかる用紙を手渡そうとしたと云う事実認定が為されているのだから、わざわざ期日指定申立書を上告人に返戻する理由がない。従って右の如き事実認定は第一の一の意味において明白に違法であり、適法な上告理由になるものと思料する。

七 第五に、午後〇時五五分から一時一〇分までの間に、わづか一五分しかなく、しかも一時一〇分が前記刑事法廷の開廷時であるから民事部書記官室から刑事法廷まで歩いて要した時間、又上告人が民事部書記官室へ行って書記官早野五善が担当書記官であることを認識し、自己の来意を説明する時間を考えると、上告人の右書記官室滞在時間は極めて単時間であることが判明する。かかる単時間に、上告人が当日の期日の結果如何を尋ねたり、早野五善がこれに答えたり、上告人が期日指定申立書を記載したり、担当裁判官が数期日を指定したり、早野五善が電話で被告代理人へ連絡して希望日を照会聴取したり、更にいわゆる口頭告知により被告人に次回期日を告知したり、裁判所用請書を被告人に手渡そうとしてことわられたり、(若しこれが真実ならば、その間に何らかのやりとりが双方の間で物語られただろう。)、又期日指定申立書を上告人に返戻したうえ、上告人がわざわざ「請書」をその裏面に記載したり、それが不完全であると云うやりとりが為されたりした旨の事実認定が為されている。本人訴訟の、法的知識にうとい上告人が、関与している場でせいぜい数分ないし一〇分程度で、右の如き事実のすべてが現に存したとする事実認定は、明白に経験法則・論理法則に違背する。従ってかかる事実認定は第一の一の意味において明白に違法であり、原判決はこの点で破棄を免かれないものと思料する。

八 真実は、右同日の書記官室において、上告人は期日指定申立書を作成し、同時に裏面に請書を作成し、これを書記官早野五善に交付しただけなのであって、同書記官から口頭告知なぞ全然受けていないのである。口頭告知なぞ受けていないからこそ、上告人は請書の年月日を補充せず、又拇印も押さなかったのである。若し真に口頭告知があったのなら、書記官早野五善は何故に不完全な請書でなく、正確な請書を上告人に催促しなかったのか、又その後でも何故電話もしくは文書で正確な請書を求めるとか、呼出状を出さなかったのかまったく説明がつかない。

以上の通り原判決の事実認定は常識に反し、論理のつじつまのあわない事実認定であること明白であり、上告審による破棄を免かれないものと思料する。なお、付言するに、早野五善の証言を裁判所はうのみにした事実認定をしているが、同証人は、口頭告知なぞないのにあったと云って自己の責任逃れを企図しているのであり、かかる証言の信用性は極めて低いのであり、裁判官と書記官の身内意識が働いて、極めて不当な事実認定が為されたと断ぜざるを得ない。

第二 法令の適用の誤り

一 当該事件の関係で裁判所に出頭している者に対しては、期日の呼出は期日を告知するだけでよい(民事訴訟法一五四条)。従ってあるとき、次回期日を指定して告知した場合は、裁判所に出頭した者に対しては呼出があったことになるが、裁判所に出頭していない者に対してはなお呼出状を必要とすると解すべきが相当である。本件の場合、早野五善による上告人に対する口頭告知があったとすれば、上告人に対しては呼出があったことになるが、被上告人は裁判所にいなかったのであるから、これに対しては呼出状を出さなければならない。然るに本件の場合、被上告人に対する呼出状は出されていない。これは本件記録上明白である。従って全体として本件の場合、適法な期日の呼出が欠缺しているのであるから、裁判所としては上告人の為した期日指定の申立に対し、あらためて適法に新期日を指定し、適法に期日の呼出を為すべきであり、主文をもって訴えの終了を宣言した第一審判決並びにこれを認容した原判決は、民事訴訟法の適用を誤った重大な違法があるので破棄を免かれない。

二 期日指定は一種の裁判であって裁判長もしくは担当裁判官の為す裁判である。本件においては期日指定があったか否か、あったとして適法な期日の呼出(口頭告知)があったか否かが最大の論点を為している。にもかかわらず、担当裁判官がいつ、どこで、どのような態様において、期日指定と云う裁判を為したのか事実認定されていない。重大な論点につき理由を付さぬ原判決は理由不備の判決として破棄を免かれない。のみならず、本件を全体として観察すると、期日指定は早野五善がしていると解せられる。担当裁判官は「期日指定の申立書」を見たか否かすら判然しない。かかる事態は、裁判官が書記官に裁判の下請をさせているに等しく、期日指定は、裁判長、あるいは担当裁判官が為すという民事訴訟法一五二条に違背する。

以上の理由により原判決は破棄を免かれないものである。

以上

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